僕らの松本滞在記2017

2017年5月24日 - WORKS

/text /工芸の五月 /2017

4/26


早朝の新宿から松本へ。

今年で9年間GWは松本で過ごしている。

この言葉の響きは凄い良くて、

アルプスの雪が残った山々が見える別荘的なところで家族でゆっくり過ごしていそうな感じ。だけど実際は男二人が汗かきながら設営して、横浜で一旦しまった冬服を引っ張り出し、盆地特有の感想に唇と喉をやられている、といった具合だ。

11時前に池上邸に到着し、池上さんにご挨拶。ここで喫水社の展示は実に6年ぶりだ。

2009年から2011年は普段あまりやらない、同じ作品を同じ会場で展示し続けていた。僕たちの意識や社会も変わり続けているのに同じものを展示し続けるってどうなんだろう?って気持ちが湧いて来て3年で一旦区切ったんだけど、ここ数年の松本の街は若い人が空き店舗にお店やゲストハウスが増えて来て、街がとてつもない速さで変わっているのを感じていたこと、ガラスの制作を担当している田中恭子が松本に工房を構えたのもあり、今年は時間の中で変わるものと変わらないものを見せたかったこともあり再演を試みた。

昼前、松本の次期市長(みんなが勝手に呼んでいる)倉澤さんに連絡をして、工房にガラスをピックアップ。工房は制作が立て込んでいるのと、釜に火入れがされていて、かなり熱気がムンムンだ。

詰めるものを軽トラに積み終えて昼飯は、工房の向かいにある普通の民家に見えるラーメン屋さんへ。店内も見えず営業しているのかどうかもわからなく、恐る恐る扉を開けると、ほぼ満席の中お客さんがラーメンを食べていた。テーブルが並んでいる客席はどう見ても広めの玄関の土間部分で、座敷的なところは廊下である。とても不思議な空間で、天ぷらラーメン(580円で安い)を注文した。

醤油ラーメンにかき揚が乗っていてありそうでなかったメニューではあるが、案外美味しかった。

午後は池上邸の蔵に搬入を始める。段ボールを開けてガラスのパーツを並べる。バラバラのパーツから組み合わせを決め、真ん中から設置する。テンションが掛かれば割れてしまう素材を組み合わせていく緊張感は久々だ。

初日は装置を一つ設営して終了。

今日は松本の友人たちがお花見キャンプを開催しているんだけど、車が無いのと思いの外遅くなってしまったので、参加を諦め1年ぶりの8オンスへ。ここにくると工芸の五月が始まる感がある。店内は禁煙になっていてここでも街の変化を感じてしまった。8オンスの後、近くに新しくできたPEGというワインバーに寄る。いい感じのスタンドで一つ松本で寄る場所が増えた。マスターはコンフィチュール屋の蒔田くんにとてもよく似ている。

ホテルに帰って就寝。


4/27

過去の写真を見ながらバランスをとりつつ引き続き設営。昨日運べなかったガラス管を伊藤さん(工芸作家・伊藤石材店)に大きいトラックを出してもらって運ぶ。今年の新作ガラス管は過去最高に長くて3.5mを超える。割れないかヒヤヒヤしながら搬入して設置へ。

今日は長さを図り、設営していくといった作業を黙々と行なった。

展示の全景が見えて来て一段落。筆で書いたような流れるガラスに光が当たりかすかに存在がわかる。


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設営最終日。

今日もホテルでたらふく朝食を食べ、川沿いを自転車で池上邸へ。

今日はめちゃくちゃ寒く、気温は3℃。

池上邸の木門を開ける。

装置の残り2つを設置して、湧水を注ぐという予定だったんだけど、この2つがやっかいだった。長さ3mを越えるガラス感の扱いに神経を削られながらの作業は思いの他時間がかかった。しかも最後のコックが外れてしまいかなり凹んだ。

でも時間はどんどん過ぎるし、他にも細かい部分でやることいっぱいあるしで、結局夜中まで作業した。

さあ明日池上喫水社初日だ。


4/29

水を祀る展覧会初日。装置の一つが不都合のため稼働しないという問題はあったが、気づかないくらい美しい空間に仕上がった。松本の渇いた空気とチリチリとした日の光の庭から、石で覆われた暗闇への吸い込まれる久しぶりの風景だ。

6年前と違うのはガラスの管がダイナミックかつ、繊細になっていること。

3.5m近い長さがあるために必然的にインスタレーションに影響して優雅な印象になった。

街で汲んできた湧水を注ぐと一滴づつ漆黒の液体となる。

遥か昔から続いてきた水とガラスとコーヒーでつくられた空間には、スローモーションのような時間の流れがある。

僕たちも6年ぶりの再演にもかかわらず20代に戻ったかのような感覚でオープンを迎えた。

門を開くと、待っていたかのように大勢の人が来てくれた。前に見てくれた人や、初めて見る人。久しぶりにあった近所の男の子は小学一年生から中学一年生になっていた。

敬語で話すあたりにやっぱり時間の経過を感じる。

夕方からの開社祭と称したオープ二ングパーティは、持ち寄りのパーティ。

幸い、近くにオープンしたばかりのフランス料理のデリを持って来た方がいてくれて、とてもお洒落なオープンテラスのパーティとなった。

しかしながら、デリ以外は全てお酒でテーブルの上には瓶が大量に並べられ、皆少ない食事を取り合いながらひたすら酒を飲む風景で喫水社らしい雰囲気に安心させられた。

ひとまず無事にオープン、9日間だけの時間を僕たちも楽しもうと思う。

あー、始まった。


4/30

昨日はオープ二ングの後、いい居酒屋に行くほどの楽しい夜だったため、朝は少し寝坊した。シャワーを浴び、荷物をまとめホテルを出る。

今朝はそんなに寒くない。

池上邸につくなり水汲みへ。朝日に輝く湧水は綺麗だ。日曜日ということもあり、人が見当たらないのも尚良い。

装置の設置を始めるも人がちょこちょこと待っていてくれて、軽いプレッシャーの中準備する。

松本で現代美術の話ができる数少ない工芸作家の柏木さんも来てくれたけど、バタバタな中お話が出来なかったのが心苦しい。

10時ちょっと過ぎ、2日目の喫水社が始まった。早速小さなお子さんをつれた親子が来てくれた。喫水社の事は人伝てに聞いていたらしく、子供にも見せたいという言葉は素直に嬉しい。

新聞効果もあってたくさんの人が出たり入ったりして、コーヒーがたくさんでる。

今日も7種類使っているのでわからなくならないように、紙に水の名前を添えて出すようにした。

昼過ぎ、まりこさん到着。開運堂の草餅をいただく。草餅は季節菓子でだいたいこの時期に売られるようなんだけど、ハッキリと宣伝しないらしく油断しているとあっという間に季節が終わってしまうようだ。

情報が全てオープンな事が前提の時代に知ってる人だけでいい感じはすごく共感できる所だ。

日焼けするほど暑い一日、アトリエハウスの管理人の辻村さんや、名古屋の友人達が来てくれて最後はワイワイとした庭になった。

この感じを見ると、寿命が縮まるくらい繊細な設営をしてよかったなと思う。

夕食はたくまのカウンターに座り、流れるような作業を見ながらカツカレーを食べる。

バスに乗って一旦横浜へ。

 

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