きたもとアトリエハウス
2012年4月1日 - Conversion / NEWS / project / WORKS
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見たいのはこれまで見たことないものだ。
「二〇一二年九月二日、日曜日。まずは永田邸の片付けからはじめることにする。婦人用バック、シーツ、花器が多い。茶器もとにかく多い。大量に持ってきた段ボールがあっという間に無くなる。今日は和室の片付けで一日が終わる。」
僕たちがここで過ごし始めてから書いている日記の一ページ目にはこう記してあった。埃と膨大な物質を目の前に汗をかきながら呆然としたことが懐かしくなるほどに、今は寒さに震えながらこの文章を書いている。ここで滞在を始めてから六ヶ月の間に、この場所の表情は季節と共に刻々と変化してきた。
大量の物を片付ける。物を処分するためにガレージセールを開催する。天井裏にアライグマがいるから天井を抜く。構造が鉄骨であることに気付いて壁を壊したら広いワンルームになった。毎日自炊をする時間がないからカレーを仕込む。アライグマがいなくなったら人間が過ごしやすいように椅子が欲しい。近所の家具作家さんと一緒に椅子をつくる。寒いから北本の暖房を考えたら薪ストーブになった。都合のいい日時にプロジェクトに参加できる。一緒に作業をしてくれるメンバーが日々違った組み合わせになる。もちろんお昼はつくった椅子に座ってカレーを食べる。
完成のイメージを先に決めるのではなくて目の前にあることを考えていくことの積み重ねがこの場所のカタチとなる、プランをつくらないことがこのプロジェクトのプランだ。目の前にあることの解決策は“しりとり”のようにいくつもの答えがある。とりあえずのお披露目があるけれど、最初から図面やシステムなんて無いんだからそもそも完成しているわけでもない。この場所での過ごし方は、この場所で過ごす人によって変わるのだから。これからもこの空間は僕たちが過ごしている時間とともにドラマチックに変わっていくのだろう。僕たちが見たいのはこれまで見たことないものなのだ。 (2013.4.1)